- 「具体的」ということに多くの人が苦戦している
- 具体的とは「場面として映像的にイメージできる」こと
- ほんとうに「具体的」になるまで突っ込む
- 映像的なイメージが浮かべば納得が生まれる
- 同じことをほかの事例で
- 言語化できたことをメモしておく
- 具体的なレベルの言語化をふまえると、抽象化しても伝わる
「具体的」ということに多くの人が苦戦している
エントリーシートや自己紹介書の自己PRでは、ご存じのように自分の「特徴・強み」をエピソードとともに述べることになっています。
そして、そのエピソードについては「具体的に表現しよう」とよくいわれます。しかし、この「具体的」ということに多くの就活生が苦戦しています。この記事では「具体的とはどういうことか」を、できるだけ具体的に説明します。これは、文章表現でも面接でも共通する重要事項です。
そもそも、学生さんに文章や面接のアドバイスをする大人だって「ここはもっと具体的に」と指摘しても、「具体的ってどうしたらいいんですか?」と聞かれると困るのではないでしょうか。そして「だから、もっとわかるように」というふうに抽象的なアドバイスをくりかえしたりするのです。
「具体的に述べよう」という抽象的なアドバイスがなされることは多い。やはり「具体的」ということは、掘り下げる意味があります。
具体的とは「場面として映像的にイメージできる」こと
たとえば自己PRにおいて、「私は課題に対し工夫・努力を惜しまない」ということが自分の強みだと考え、そのことを「個人指導の学習塾の講師のアルバイト」という題材を通して述べるとします。
この「工夫・努力」は、取り組む様子が場面として目に浮かぶような具体的レベルまで、明確にする必要があります。
そして「具体的に」というと、かなりの人は「私は生徒目線で指導し、その結果〇人中〇人を志望校に合格させました」といったふうに書きます。
たしかに「〇人中〇人が合格」は、数であらわせる成果・実績というかたちで具体的なことを述べています。それそれでよいのです。しかし「生徒目線で…」というのは、「何をしたかのか」があまりにもぼんやりしています。
こういう説明に対しては、「生徒目線のために、具体的には何をしたんですか?」という突っ込みが必要です。
すると、最初はたいてい「生徒のことを考えて、わかりやすい、ていねいな説明をこころがけました」みたいな説明が返ってきます。これは、言葉の数は増えましたが、抽象論のくりかえしです。
そこで「そういうことじゃなくて、具体的というのは、あなたがそれをしている様子が場面として映像的にイメージできるような説明をしてほしいということです」とさらに突っ込むのです。
ほんとうに「具体的」になるまで突っ込む
するとたとえば「ほかのアルバイト講師よりも、ずっと時間をかけて授業の準備をしたと思います。授業ごとに〇時間はかけていました」といった答えが返ってきたりします。
これだといくらか「映像」「イメージ」が浮かんできます。ぼんやりとですが、この人が毎回〇時間も机に向かって準備している姿が浮かんでくる。しかし、やはりまだぼんやりしています。
そこで「その準備では何をしていたんですか?」「一般的な準備とはちがう何か特別なことはしたんですか?」などと聞きます。ほんとうに「具体的」になるまで突っ込む。
するとたとえば「テキストを何度も読み込んで、頭にしみこませるんです。声に出して読み上げることもしました。結局、テキストを自分がきちんと消化していないと、説明もフラついてしまいます。消化するには時間をかけて、できれば体も使ってくりかえさないとダメなんです」といった答え。
なお、じっさいにはこんなにすんなり話が出てくることは少ないです。もっとやり取りしをして、どうにかこのくらいにまで達するのがふつうです。ここでは簡略に述べています。
映像的なイメージが浮かべば納得が生まれる
そして、そうやって話すうちにさらにこんな話も出てきます。
「あと、テキストに沿ったことだけでなく、子どもの興味をひきつけるための雑談ネタみたいなことも、あらかじめメモしていました。たとえばゲームのこととかですね。それから、テキストの問題以外に、関連する知識を問う選択肢のクイズもつくって、生徒に出題していました」
このくらいになると、聞いている側はその人がテキストをくり返し音読したり、雑談やクイズのネタを考え、生徒に話したりする、かなり映像的な姿が浮かんでくるはずです。
その結果、聞いている側に一定の納得が生じる。それは「生徒目線で指導しました」というだけではあり得ない。
自己PRのエピソードの説明では、まずはそくらいのレベルまで具体的に述べる必要があります。そうでないと読む側・聴く側に「映像」が浮かばない。つまり納得が生じない。納得のいかないぼやっとしたことしか述べない人が、選考を通過するのはむずかしいです。
なお、上記の学習塾の人には、さらに「たとえばどんなクイズ問題をつくったんですか?」とか「そのような準備をしたのとしないでは、どういうちがいが出ましたか?」などと問う必要もありますが、この事例はここまでにしておきます。
同じことをほかの事例で
ほかの例で同じことをくり返してみましょう。飲食店のアルバイトの場合でも、「私はお客さん目線で接客して、売り上げに貢献しました」と述べる人は少なくありません。
これもやはり「ではどんな接客をしていたんですか?」と突っ込む必要があります。
するとかなりの場合「ですのでお客さんの立場に立って…」みたいな同じような抽象的な答えが返ってきます。
そこで「そうではなくて、具体的な行動やお客さんへの言葉がけを述べてください」とうながす。
すると、たとえば「“おすすめ”ということを積極的にしていました。お客さんの注文・好みから、ほかにこういうのもあります、というご案内をいつもしていました」などと返ってくる。
そこでさらに「たとえばどんな人にどんなメニューをすすめていたんですか?」と聞くと、お店でその人がお客さんと話す姿が目に浮かぶように説明してくれることもある。
たしかにこういうときは、具体的な言葉づかいまで、シナリオや小説の会話の場面のように再現することが望ましいです。つまり「今日は〇〇産の、あぶらののったアジが入っていておすすめです」「じゃあそれをもらおうか」みたいなことです(実際はもう少し工夫した会話が多いですが)。
言語化できたことをメモしておく
私は学生さんとの対話でこのような突っ込み・問答をしてきましたが、それを自問自答でできる学生さんも、なかにはいます。そういう人なら、自分のエピソードの核心をなす「努力・工夫」などを明確にして述べることができるでしょう。しかし、かなり難しいとは思います。
そして、その取り組みできちんと頑張った人ほど、いろんな事柄が具体的に出てきます。
たくさん出てきて、エントリーシートの限られたスペースに整理して書くのに苦労することもありますが、それはまた別の話です。それは「整理・要約」という文章術に関する事柄です(それはまた別の機会に)。
まずはこうしたネタさがしの段階では「エントリーシートにおさまるか」は気にしないで、思い浮かんで言語化できたことをできるだけメモしておく。整理はあとでできます。
そして、メモしておかないとたいていは忘れてしまいます。しかし、こうした「浮かんできたことのメモ」がしっかりできる学生さんは多くはないと思います。
私は、学生さんと対話するときに、時々ですがその人が話したこと(上記で述べた具体的な取り組みについての話など)をその場でシートにメモして渡してきました。
すると、みなさんが喜んで持ち帰ってくれます。後日お会いすると、そのメモを大事にファイルしてあったりします(本当は自分のノートに転記し加筆してほしい)。
私のやり方はサービス過剰かもしれませんが、とにかく「その場で浮かんだこと、語ったことをメモする」のは大事なことです。カウンセラーや教師との相談中であっても、「ちょっと待って」と、学生あるいはカウンセラーが対話を止めてメモの時間を設けてもいいのです。
具体的なレベルの言語化をふまえると、抽象化しても伝わる
こんなにメモのことを言うのは、自分の経験を映像的なイメージとして伝えられるように言語化することは、ふつうは相当にむずかしいことだからです。
しかし、会話のなかで何気なくできてしまうことはある。でも、いざとなるとむずかしい。だから言語化できたとき、その機会をのがしてはいけない。
そして、ここで述べる具体的な言語化は、就活において表現力を高めるうえでポイントとなります。
たしかに、いろいろ言語化してメモしたとしても、エントリーシートにすべてを書くことはできません。結局は抽象化した要約を書くことになります。
しかし、具体的なレベルでの言語化をきちんとふまえた後に書いた抽象的な要約は、切れ味や奥行きがちがってきます。
たしかに抽象化されてはいるのですが、それでも「伝わる」ものになっているのです。抽象的な表現の背後に、より具体的な自覚されたイメージがあるからです。それによって、書きぶりが微妙であっても変わってくるのです。
そして、そのような「背景となる具体的イメージ」が頭のなかにあるということは、面接でいろいろ突っ込まれても対応できるということです。
「具体」「抽象」の概念を説明した記事
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