親と教師のそういち就活研究所

親・先生などの、若者の近くにいる大人のための就活講座のブログです。でも就活生にも役立つかと。

新卒の求人票にある「給料」の読み方・「給与水準以前」のチェックポイント

給与には企業のあり方が集約されている

 この記事では、新卒求人の求人票に書かれている給与、とくに毎月支払われる給料(月給)の見方について基礎知識を述べます。「給与」とは給料(正社員ならふつうは月給)と賞与(ボーナス)のことです。 

求人票をみるとき、一番のポイントとなるのはもちろん給与です。給与にはその企業のいろいろなあり方が集約されています。

つまりその会社の経営状況や、社員に対しどれだけ誠実かが、正直にあらわれます。口先でいいことを言っても、偽りであれば給与には本音が出てしまう。

しかし、就活生のかなりの人たちは、求人票に書かれた給与に意外と無頓着ですし、そこに書かれていることの意味を知らない場合も多いです。

「中小企業の新卒の初任給」に話を限定

ここで述べるのは求人票の「新卒求人の初任給」についてです。そしておもに中小企業を前提にします。

初任給だけでなく(それ以上に)生涯賃金も重要ですが、ここでは立ち入りません。そもそも、その企業の生涯賃金は、入社以前には情報が少なくてまずわからないのです。とくに中小企業ではそうです。

中小企業の求人が前提なのは、筆者が中小企業への就活支援をおもに行ってきたからです。そして、求人票の給与をよく確認する必要性が高いのは、大企業よりも中小企業の求人だということもあります。

中小企業の求人では、残念ながら給与面などで「不誠実」と思えるものが、大企業よりも高い割合で存在します。しかし一方で「誠実な内容・書き方」といえる求人もたしかにある。これを見分けるのに役立つことを解説します。

なお、この記事では法律論には立ち入りません。法的にどうかはもちろん大事ですが、それよりも「人を雇う企業として誠実かどうか」を問題にします。法律の基準は「誠実さ」の最低ラインです。

また給与が高いか安いかという「給与水準」の問題についても、ここでは触れません。「給与水準以前」のチェックポイントを、ここでは述べます。

 給与はどういう要素で構成されているか

給与は、つぎのようないくつかの要素で構成されています。

・基本給
・無条件に支給される手当
・条件つきで支給される手当
・残業代
・賞与(ボーナス)

各項目の名称や分類はこの記事独自のものですが、この5つで考えることが就活生にはわかりやすく実用的だと考えています。なお、ここでは賞与以外の、月々支払われる給料=月給に話を絞ります。 

以下、各項目について説明します。

基本給=月給の主要な部分 

基本給とは、ルールを守ってきちんと働いているかぎり無条件に支払われる、月給の主要な部分です。

ここでいう「無条件」とは「きちんと働いているかぎりは一律に」ということです。

「月給の主要な部分」といいましたが、「月給が基本給だけ」という会社もなかにはあります。たとえば初任給が「基本給20万円」でそのほかに(一律に支給される)手当などはない、という会社です。

「無条件の手当」と「条件つきの手当」

つぎに、「無条件に支給される手当」と「条件つきで支給される手当」について。基本給以外の「〇〇手当」は、その支給に条件があるものとないものがあります。

「住宅手当」があるとしても、たとえば「入社1年目では全員に毎月1万円支給」という会社もあれば、「特定の地域(例えば都内)に在住の場合毎月1万円」「結婚して家族がいれば毎月〇万円」などの条件つきで支給される場合もあるわけです。

そして、条件しだいで金額が変わる場合もあります。たとえば家族が増えれば「家族手当」が増えるといったことです。

ほかの例でいえば、「皆勤手当」なら多くの場合一定の出勤条件を満たした場合にのみ支給されますし、「資格手当」であれば、仕事に関する一定の資格を持つ人に支給されるのがふつうです。そして資格の種類・レベルによって支給額も異なることが多いです。 

なお、このような「〇〇手当」というのは、法令で決まった名称ではありません。たとえば「住宅手当という名称で支給する場合には、こういう内容でなければいけない」といった法令上の定めはないのです。つまり「〇〇手当」というのは、会社ごとに名称や中身を決めることができます。

月給とは本来「基本給+無条件の手当」 

そして大事なことは、企業が求人票に「月給」として書くべきなのは、基本給のほかには「無条件に支給される手当」だけということです。

「条件つきで支給される手当」まで月給に含めて求人票に書くのは、不誠実といえるでしょう。しかし、そういう会社も中にはあります。

その就活生が入社したときにもらえるかどうかわからない賃金まで、「もらえる」と思わせるような書き方は、やはり望ましくありません。

誠実な会社なら、求人票の「月給」には「基本給」と「無条件の手当(条件しだいで金額が変わる場合はその最低額)」だけを書くはずです。「条件つきの手当」は、月給以外の事項として補足的に書くべきです。

時給換算で最低賃金を下回っていないか

そして最低賃金のこともあります。「基本給+無条件に支給される手当」を労働時間で割って時給換算したときに、最低賃金を下回っていないかも確認すべき点です。

これは、求人票にある月給が、地域の相場よりもかなり安いと思ったら計算してみるといいでしょう。

簡易な確認方法はつぎのとおり。あくまで求人票の情報で可能な範囲の方法で、限界はありますが、おおまかにチェックするのに使えます。

(毎月の基本給+無条件に支給される手当)×12=月給の年間総額…①

1日の所定労働時間×年間の勤務日数(365日-その会社の年間休日数)=年間の総労働時間…②

①を②で割った「時給」を都道府県ことに定める最低賃金と比較する

 最低賃金を下回るなら違法で論外ですが、ギリギリで上回っていることも、ときどきあります。「最低賃金をギリギリ上回る会社」は、違法ではないにせよ、やはり「残念」といえるでしょう。

固定残業代がある場合は注意 

つぎに残業代です。残業代で重要なのは「固定残業代」がある場合です。固定残業代とは、毎月「〇時間」という一定の残業を想定し、その「〇時間」分の残業代を毎月支払うことです。実際の残業がその「〇時間」に達しなくても、あらかじめ定めた(固定の)残業代を支払います。

そして、想定の残業時間を上回る残業が発生したら、会社は上回った分の残業代を支払わないといけません。

固定残業代じたいは問題ありませんが、気をつけるべき点があります。

そもそも、固定残業代について明示していない場合があります。たとえば「月給20万円」とだけ述べて、じつはその「20万円」には「固定残業代2万円(〇時間分)」が含まれている、といったケースです。これは最も不誠実です。

求人票には固定残業代のことが書かれていなかったのに、会社に話を聞くと、じつは月給に固定残業代が含まれているというケースは、少数ですがみられます。そんな会社は疑ってかかるべきでしょう。

固定残業代の整合性

それから、固定残業代について明記している場合でも、給料のほかの部分との整合性が問題になることもあります。

まず、時給換算した固定残業代が「基本給+無条件で支給される手当」を時給換算したものと、つじつまが合っているか。

たとえば「基本給+無条件の手当」を時給換算すると1200円だったとします。その場合に固定残業代が「月30時間分の残業代として3万円を支給」というのはアウトです。

この場合、時給換算した固定残業代が、1200円×1.25(残業の割り増し)=1500円を上回らないといけませんが、時給換算した固定残業代は1000円(3万円÷30時間)なので問題です(最低賃金は上回っているものとする)。

こういうチェックをして固定残業代があるべき金額を下回っていると、その会社の誠実さは疑わしくなります。

ただし「微妙に下回っている」場合には、わざとではなくミスという場合もあります。少なくとも、上記の例のように「大幅に下回っている」なら、その会社を疑っていいでしょう。

 固定残業代については、さらにチェックすべき点はありますが、ここまでにしておきます。

「内訳が明確でシンプルな月給」が基本 

以上の基礎知識をふまえて「誠実な初任給とはどういうものか」を考えたいと思います。

まず大事なことは、求人票に書かれている給与の内訳が明確であること。

それは「基本給」「無条件に支給される手当」「条件つきで支給される手当」「固定残業手当」がきちんと区別できるように書かれているということです。それがあいまいで、誤解させる書き方になっているのは望ましくない。

そしてできれば、一概にはいえないものの、月給の構成はシンプルなほうが望ましいと私は思います。「シンプル」とは、全部かほとんどが基本給で構成されているということです。

それは、賞与が一般に「基本給×〇か月分」というかたちで決められるからです。「〇〇手当」は、こうした賞与の計算の基礎には含めないのが一般的です(例外はあります)。

つまり、同じ「月給20万円」「賞与は年2回で合計4.0か月」でも、月給が①「基本給だけで20万円」の会社と②「基本給15万円+〇〇手当5万円」の会社では、賞与の額はちがってきます。①だと80万円で、②だと60万円です。

ただし、②の会社の賞与が「6.0か月」だったら90万円で、②の会社のほうが多いことになります。

つまりこれは「賞与が何か月分か」という別の条件に左右されるので、「基本給が低いと賞与が少ない」とは必ずしもいえません。「基本給の比重が高いシンプルな月給が望ましい」とは一概にはいえないわけです。

しかし、ここでいう「シンプルな月給」ということは、一つの視点として意識するといいでしょう。給料は「明確でわかりやすい」ことが、基本的には社員にとって利益であるはずです。