親と教師のそういち就活研究所

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事務職の就職先としての健康保険組合

事務職(一般企業以外)の選択肢

このブログでは、これまで3回にわたって新卒の就活での「事務職の選択肢」について述べてきました。事務職の就職先としてどのような選択肢があるかということです(それらの記事については、末尾にリンクがあります)

公務員や一般企業以外の事務職のおもな選択肢をあげると、つぎのとおりです。

①公益法人(とくに業界団体)
②その他の一般企業以外の法人
・病院・クリニック(健診機関含む)の事務職
健康保険組合の職員
・学校(専門学校・大学等)の職員
・士業(法律・会計・特許などの事務所)の事務職

この記事では「その他の一般企業以外の求人」のうち、「健康保険組合」について述べます。

健康保険組合は、求人は比較的限られているものの、事務職志望者は一定の選択肢として視野に入れておいてよいと思います。

健康保険組合とは

健康保険組合(以下、健保組合)とは、従業員が加入する、会社によって設立された健康保険の組織です。組合とは、ほぼ法人に近いものと考えてください。

大企業は単独で健保組合をつくることもありますが、多くの会社は同じ業界のほかの会社と共同で健保組合をつくり、従業員が加入します。世の中には業界単位の健保組合が数多く存在します。

全国には1400弱(2021年4月1日現在で1387)の健保組合があり、被保険者(保険に加入する従業員)とその家族をあわせると、約3000万人が加入しています(全国の健康保険組合の団体である「健康保険組合連合会」のホームぺージによる)。

つまり健保組合の世界を「業界」としてみると、それなりの規模ということです。

そして1400弱の保険組合の一部(具体的な数はわかりません)は、例年かそれに近い頻度で新卒求人を出しているのです。

*「業界」ということについては、この記事を。

なお、会社が業界の組織に属していない場合(小さい会社に多い)などは、従業員は業界を問わない「全国健康保険協会」による「協会けんぽ」に加入することになります。なお、健保組合の健康保険のことは「組合健保」といいます。

このほか健康保険には、自営業者などが加入する国民健康保険と、公務員が加入する各種共済組合があります。

以上の健康保険の区分についての説明は、はなはだ不十分ではありますが、ここではこれでいいでしょう。

さまざまな規模の健保組合

健保組合には、加入者が数千人で職員が10名前後の小規模なものから、加入者が数十万人で数百人以上の職員からなる比較的大きな組織もあります。

当然ながら規模が大きな組織のほうが経営の安定度が高く、給与などの待遇が良い傾向があります。そのような健保組合の新卒求人は、競争率が数十倍以上になることもあります。

新卒求人の件数として多いのは、加入者が数万人~10数万人で、職員が数十人から200人程度の中規模の健保組合です。こうした中規模の健保組合は、例年かそれに近い頻度で、各年で1人~数人の新卒採用を行っています。

一方小規模な健保組合は、あまり新卒採用をしていないのですが、退職者の補充などで、新卒求人や未経験の若手を採用する求人が出ていることもあります。

近年は経営が悪化する傾向(重要)

ただし、健保組合の経営状況は、最近は苦しい傾向があります。

健保組合は、加入企業の業界が不景気になったり、従業員が高齢化すると経営は厳しくなります。つまり、保険料収入の基礎となる従業員の給与や従業員数が減ったり、加入者の高齢化によって医療費の支払いが増えたりして、収益が悪化するのです。

そして、業界・組合にもよりますが、近年は経営が悪化する健保組合が増えています。産業構造の変化や高齢化などの影響です。

さらに、コロナ禍の影響も大きいです。

コロナの感染拡大前の2019年度には、およそ1400ある健保組合のうち赤字の組合は35%でしたが、2021年度には赤字組合は78%(1080組合)にもなりました。

これは宿泊・飲食、生活関連サービス・娯楽業をはじめとするさまざまな業界がコロナの影響を受け、給与の落ち込みやリストラがあったことなどが影響しています。(日経新聞2021年4月21日)

そして経営悪化による健保組合の解散も、近年は増加傾向です。2008~2021年度の間に111の健保組合が解散したというデータもあります。(大和総研のレポート 石橋未来「財政悪化に直面する健康保険組合」2021年8月24日 )

そして経営が悪化する健保組合が増えた以上、新卒採用も減少せざるを得ないわけです。

健保組合の仕事・人材像

経営悪化の問題があるものの、ここで健保組合をあえて紹介するのは、その仕事が、多くの事務職志望者の志向と合う点が多々あるからです。

健保組合の業務の柱は、基本的には比較的淡々とした事務処理です(被保険者のデータ管理、給付等に関するさまざまな処理など)。残業も少ない傾向があります。

それらの事務を専門的知識のもとで確実・丁寧に行う、信頼のおける人材を求めています。

そして穏やかで人あたりの良い、人間関係を円滑にできるタイプの人が好まれる傾向がかなり顕著です。一般職の女子の採用のほうが多いですが、おもに男子を想定した総合職の求人もあります。

組織の雰囲気も、やはり穏やかであることが多いです。業界が競争的ではないからでしょう。そして「加入者の利益をはかる」という、一定の公益的要素もあります。私が人事の方から話を伺った組合では「公務員試験で受からなかった人、歓迎」とのことでした。

また、中小規模の組合の場合はオフィスは1か所のことが多く、転勤もありません。

ただし、「淡々とした事務」ばかりではないという面もあります。たとえば加入者の問い合わせに窓口や電話で対応する接客的な業務も重要です。また、組合によっては加入企業を増やす勧誘の外回りなど、営業的な活動が業務のなかでかなりの比重を占めることもあります。

決算書を確認してみる

このような健保組合の仕事は、事務職志望の就活生が選択肢として視野に入れていいいと思います。

ただし残念ながら、近年は(とくにコロナの感染拡大以降は)業界全体で経営悪化という大きな問題があるということです。今後、健保組合の解散や統廃合がさらに増える可能性はたしかにあるでしょう。

ただし、本当に危機的な組合は新卒採用を行わないので、新卒求人が出ている場合は、赤字であったとしても一定の見通しがあると推測はできます。

かなりの健保組合は、決算書をネット上で公開しています。応募にあたってはそれを確認してみること。決算書がよくわからない人は、少し自分で勉強してみるか、わかる人に(その組合のものを)みてもらいましょう。

 

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