親と教師のそういち就活研究所

親・先生などの、若者の近くにいる大人のための就活講座のブログです。でも就活生にも役立つかと。

大まかな方向性で「就活の軸」を考えよう・キャリア・アンカーという概念

錨(アンカー)があれば流されない

私たちは絶えず現実の荒波にもまれています。自分の仕事について「こうありたい」という目標や志望を持って取り組むのは大事ですが、現実の荒波によって望まないほうへ流されてしまうことも多い。

荒波に動じないのは、むずかしい。でも、ただ現実に流されてしまうのもいやです。

そこで、錨(いかり)のようなものを海の底におろしたらどうか。錨と船=自分は、長い鎖でつながっている。それだと、荒波にほんろうされることがあっても、遠くに流されることはなく、「そこに居たい」と思うあたりに、だいたいとどまることができます。

キャリア論の世界に「キャリア・アンカー」という概念があります(エドガー・シャインという学者が提唱)。自分のキャリアについて「こうありたい」という、大まかな方向性や価値観のことです。

そのような「方向性や価値観」を自覚することは、先ほど述べた「錨(アンカー)」を海の底におろすようなものだということです。

具体的な仕事や業界で考えるのもありだが

 このキャリア・アンカーという考え方は、すごく大事だと思います。社会人のキャリアを考えるうえではもちろんですが、就活生にも大事です。

私はキャリア論の教科書に載っている説明や概念をありがたがるほうではありません。しかし、このキャリア・アンカーは、私が「これは使える」と思える数少ない「教科書的な概念」のひとつです。

学生さんに対して「自分のやりたいこと、なりたい職業をみつけよう」「志望の業界や企業を考えよう」みたいなことがよく言われます。学校での「キャリア教育」でも言われることが多い。

「やりたいこと」について考えるのは、もちろんありです。しかし、その「やりたいこと」について、特定の仕事や業界、あるいは志望企業といったレベルまで考えることは、就活の初期の段階ではかならずしも重要ではありません(もちろんいずれは受ける会社を具体的に決めないといけませんが)。

そのような具体的レベルで考えてもいいのですが、それに縛られることなく、もう少しばくせんと考えることも必要だと思います。

大まかに方向性と価値観を考える

就活を始めた頃の学生さんのなかには、自分の志望について「食品メーカーで商品開発」「キャビンアテンダント」「雑誌の出版社」「〇〇市役所の職員」などの特定の仕事や業界を決めている人がいます。それはそれでいいかと思います。

ただ、それに加えてもう少し抽象的なかたちで、大まかに「自分の方向性・価値観」について整理することも、おすすめです。

つまり、つぎのようなことを自分に問いかけて、言葉にしてみるのです。

・自分がその仕事・業界を志望するのは、何を実現したいからなのか
・その仕事の何が自分にとって良いと思えるのか
・自分が仕事で大事にしたい要素や条件は何か

同じ仕事の志望者でも価値観はいろいろ

以上の問いかけを、私は業界・仕事の志望が明確な就活生の方に何度もしてきましたが、同じ仕事を志望する人でも、やはりちがいがあります。はじめは似た答えが返ってくる傾向がありますが、対話を深めていくと、その人なりの考えが出てくることが多いです。

たとえば、地元の市役所を志望する人のあいだでも、「地元で仕事がしたい、地元に貢献したい」という地元志向の強い人もいれば、「社会貢献・公益の実現」に力点があって、必ずしも地元でなくてもいい(しかし地元のほうが採用されやすいので受ける)という人もいる。

あるいは「仕事や暮らしの安定」がとにかく大事という人(それはたしかに重要)、「秩序のある、固いイメージの事務職がしたい」「専門知識で人の役に立つ」「幅広い人たちへの対応・サービスに自分が生かせる」といった志向の人もいます。

こういう、自分の大まかな方向性や価値観を自覚することが、キャリア・アンカー的な発想です。

ほかに例をあげれば、「出版社でファッション誌の編集者」を志望する人には、服やアクセサリーが好きという人が多いですが、さらに志向や価値観を掘り下げるといろいろです。

ファッション以上に活字や文章への想いが強い人もいれば、「自分がいいと思うものを人に知ってもらいたい」「服やアクセサリーだけでなく、綺麗なもの全般に触れたい」「面白い人、格好いい人が大好きで、そういう人に会いたい」といった人もいます。

こういうことを掘り下げ、整理するとその人の「軸」が明らかになっていきます。

「何をしたいのかわからない」なら、まず大まかに考える

そして、志望の業界などが明確に決まっていない、「何がしたいのかわからない」という人も、今述べたような大まかなレベルで「方向性や価値観」を考えてみればいいと思います。

そのような、キャリア・アンカー的な「方向性や価値観」こそが、本来の「就活の軸」ではないか。自分の志望について、たとえば「〇〇業界」「キャビンアテンダント」「出版社」などと定めることが、かならずしも「軸」というわけではないと、私は思います。

就活生の方から「業界をしぼるか、しぼらないほうがいいか?」と聞かれたことが何度もあります。私の考えとしては「あまり狭くしぼらないほうがいい」と思います。

もちろんそれは「何でもいい」ということではありません。おおまな方向性や価値観の幅の中で、複数の業界や職種をみていくことではないかと。

 「方向性や価値観」で志望動機が書ける・立ち直れる

キャリア・アンカー的な「方向性や価値観」を自分のなかで明確にすると、いくつかの明らかな効用があります。

ひとつは、志望動機がきちんと書けるようになります。志望動機は、自分の「方向性や価値観」をまず述べて、それと「その会社の仕事」が交わるところを説明することで書けます。

もうひとつは、志望度の高い会社などに落ちたとしても、大まかな方向性や価値観に沿ってほかの業界や会社を探すことができる、ということがあります。少なくとも「方向性や価値観」が、また動きだすうえでの手がかりにはなります。

志望する市役所に落ちたとしても、自分の軸が「地元への貢献」なら、地元の民間企業をいろいろあたってみる。「固い事務職」あるいは「専門性で貢献」が大事なら、民間で(地元に限定せず)そういう仕事を探す。「幅広い人への対応やサービス」で自分を生かしたいなら、そうした仕事は相当あります。

私が接したなかで、ファッション雑誌の編集職に落ちた人で「自分がいいと思うものを人に知ってもらいたい」という志向が強い人がいました。その人は、雑貨や生活用品の卸売りの会社(専門商社)に志望を切りかえ、内定を得ました――そんなこともあるわけです。

志望するところを落ちても、多くの人はなんとか立ち上がってまた動きだすものです。ただし、「方向性や価値観」が明確な人のほうが、そうでない人よりも立ち直りは早いです。

それが明確でなかった人のなかには、志望の会社に落ちたら混乱して、あわてて駆け込んだ就活エージェントにいわれるまま、当初の志望とはまったく異質な企業(離職率が高い会社もある)を受ける、などということもあります。

これは「錨=アンカーがないので、遠くに流されてしまった」ということです。

 「社会のなかの大まかな役割分担」から考えるという方法も

ただし、大まかな「方向性や価値観」について、ここで述べたような「自分にとって大事なことは何か」という方向で考えても、答えが出てこないという人もいます。

その場合は、「社会なかのおおまかな役割分担のなかで、どういう役割でいたいか」という視点で考えればいいと思います。

「社会のなかのおおまかな役割分担」のあり方については、いろいろ考え方はあると思いますが、つぎのような4つの大分類を私は考えています。

1.新しい情報や価値を創造する、または情報処理の枠組み・基盤をつくる仕事(高いスキルの少数派)
2.情報処理を核とする仕事(中程度の専門性の、そこそこのホワイトカラー)
3.人をケアする、人に働きかける仕事(コンピュータなどの賢い機械が苦手①)
4.モノを扱う、モノに働きかける仕事(賢い機械が苦手②)

この分類は、現代の若者にとってのごくおおまかな「職業地図」です。詳しくはつぎの関連記事で。

その他の関連記事

 

概念の提唱者シャインによる著作