親と教師のそういち就活研究所

親・先生などの、若者の近くにいる大人のための就活講座のブログです。でも就活生にも役立つかと。

いい年になっても「将来何になる?」と考え続けよう

もう今が将来なんですよ

歌人の穂村弘さん(1962~)のエッセイに、こんなくだりがありました。著者がスタバでお茶をしながら考えたこと。 

“将来、何になろう。
どこに住もう。
誰と暮らそう。
何をしよう。
そこで、ふっと思い出す。
あ、もう、今が将来なんじゃん。
俺、四十一歳だし。
何になろうってのは、総務課長になってるんだし…”

(『本当はちがうんだ日記』集英社文庫)

このエッセイには、こんなくだりもあります。お母さんとの会話。

“ 「おまえ、将来何になるんだい?」
いやだなあ、お母さん、もう今が将来なんですよ”

 40代で失業中の私も「これから何する?」

10年余り前に初めてこれを読んだとき、私はげらげら笑ってしまいました。穂村さん独特の、シュールな味わいの冗談。

でもそれ以上に「これ、オレのことじゃん」と思いました。当時の私は十数年務めた会社を辞め(最後の役職は私も総務の課長だった)、会社をつくって起業を試みたのですが3年ほどで撤退し、無職でした。

40代半ばにしてなんの仕事もなく、ブラブラしていました。お金もありません。事業に貯金をつぎ込んだので、借金は負っていませんが、すっかり丸裸の状態。

そんな私に母が「あんた、これから何するの?」と会うたびに言っていました。私も、「ほんとに、これから何をしようか」と考えていました。

40代半ばというのは、まさに若いころに考えていた「将来」です(穂村さんの言うとおりです)。なのに、母親に「将来何になるんだい?」などといわれている。笑ってしまいますね……

いい年して「将来何になる?」はあたりまえになる

でも、これはそんなにシュールなことではない、と今は思います。

40代50代でそれまでのキャリアをいったんリセットし、新しい仕事をはじめる。もう一度、新しいキャリアを築くための勉強や修行をやりなおす。そういうことは、一般的になると思います。

つまり、いい年になって「将来何になろう?」と考えるのも、あたりまえになる。そんな時代がくるのではないか。いや「すでにそうなってきた」といえるかもしれません。「セカンドキャリア」といった言葉も浸透してきました。

以上のようなイメージは、無職だった私がその後「キャリア・カウンセリング」についての資格勉強をはじめたときに読んだ、10年ほど前のテキストや本にも述べられていました。

キャリア・カウンセリングとは、要するに人の職業選択などの相談に乗る仕事のこと。「将来、その仕事をする人になろう」と、勉強をはじめたわけです。

そして、その後はその仕事(学生・若者のための職業相談)で職を得ることができ、9年ほどその仕事で給料をもらって生活しました。50代になった今は組織に属さずフリーで活動しています。

まだまだ考える「将来」がある

でもまだまだ、私のこの仕事は発展途上の状態です。それでも、その分野の人間としてはそれなりの経験を積んで、相談者のお役に立てるようになったとは思います。

しかし、専門家として確立したポジションなどがあるわけではない。そういう意味で、「まだまだ」です。

また、給料をいただく仕事の傍ら、私は歴史や社会科学にかんする勉強を若いころからライフワーク的に続けていました。そして、世界史の概説書(『一気にわかる世界史』日本実業出版社、2016年)などの著作を出版したりもしています。

でもその手の著者としては、まだ2、3冊を出しただけで、やはり「まだまだ」です。こちらの系統の仕事についてもこれからどう開拓していこうかと考えながら、日々模索を続けています。

こういう状況ですので、50代になった今も「将来、どうしよう」としょっちゅう思います。

キャリア関係の仕事も著作の仕事も、今後とも続けていくつもりですが、しかし「将来」は今とはまたちがったかたちになっているとも思います。

それを具体的にどうするか。どういう方向へふみだすか。そのために何をしたらよいのか。

つまり、私にはまだまだ考える「将来」があるわけです。

社会でのポジションが固まりきっている人がどれだけいるか?

でも、これは一度失業して、一から出直しとなった私だけのことではないでしょう。

社会でのポジションが固まりきっていて、「将来」をあれこれ考える余地もない、などという人が、じっさいのところ世の中にどれだけいるか? 

いい年をして「将来何になる?」と考え続けることは、悪い冗談ではなく、誰にとっても意味があるのではないでしょうか。

そして「将来何になる?」と真剣に考えて取り組む大人の姿は、自分の将来について模索する若い人たちにきっといい影響を与えると思います。自分の人生やキャリアを「やり方しだいで切りひらくことができる」という、柔軟なイメージを若い人に伝えることになるはずです。