親と教師のそういち就活研究所

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「平均が貴重な時代」における3つの大きな選択肢

平均が貴重な時代 

「現代は平均が貴重な時代だ」ということを、このブログではくりかえし述べています。

つまり、ITなどの技術の発達、経済成長の停滞、国際的な競争の激化などによって、比較的待遇のいい、中程度のスキルに基づく安定した仕事を得ることはこれからますます困難になる、ということです。

たとえば安定した事務職やその管理職のような「そこそこのホワイトカラー」といえる仕事は、さらに希少なものになる。

未来の働き手は、コンピュータ・AIという「賢い機械」を補完する、高いスキルを持つ少数派と、そうでない多数派に分かれる。多数派が「中流」の暮らしを維持するだけの所得を得ることはこれまでよりも難しくなる。

そんな見通しを述べる識者は多いですが、私もそれは正しいのではと思います。

 しかし、ことさらに危機感をあおったり、「こんな社会はまちがっている」と非難するつもりはありません。まずは現実を冷静に受けとめたい。対応の選択肢はあるはずです。そして若い人ほど、選択肢の幅は広いのです。

以下、その大まかな選択肢について述べます。ここでは「社会をどうすべきか」ではなく「個人としての対応」に話をしぼっています。また(新卒生や若者の)企業への就職を前提としたもので、「独立・フリーランス」の路線は除きます。

選択肢は大きく3つあります(数え方によっては4つ)。個々の選択肢について深くは述べていませんが、ざっとみわたすことは意味があるでしょう。

選択肢1「高いスキルを持つ少数派」になる

未来の労働市場が、少数の高いスキルを持つ人材とその他大勢に2極化するなら、自分は「高いスキルを持つ少数派」になれないだろうか? まずはそう自問してみましょう。具体的には、それぞれの分野で上位数パーセントの人になるということです。

つまり、優秀とされる大学に入ってしっかりと学び、各分野においてステイタスの高い(なかなか入ることのできない)会社・組織に職を得るところからキャリアをスタートさせる。何年か努力して一定のレベルに達すれば、そこからはいろんな展開があり得る。それが「高いスキルの少数派」の典型的なコースです。

若くて知的で元気な人は、やはりこれを目指すことをまず考えればいいと思います。そしてこれは「これからの社会・労働市場」をふまえた仕事論において、主流の考え方です。

しかし、この選択肢については「自分にはむずかしそうだ」あるいは「気が進まない」という人は多いはずです。それは当然の話です。やはり大変なことで、誰にもすんなりできることはない。

それでも現代社会の変化をふまえた、多くのキャリア論が「高いスキルを持つ少数派になろう」という論調です。それには違和感があります。そこで、以下の選択肢についても考えたいのです。

選択肢2「そこそこのホワイトカラー」も有力ではある

「そこそこのホワイトカラー」も、やはり有力な選択肢です。ただし、それなりの戦略や努力が必要です。

「中程度のスキルの、待遇の良い安定した仕事」には、多くの志望者がいます。たとえば都市部の地方公務員、優良な中堅・中小企業の事務職はかなりの狭き門になっています。

高度成長期から今の就活生の親世代が若い頃までは「そこそこのホワイトカラー」の職はおおいに増加傾向にありましたが、その後増加は止まり、今は縮小の兆しがあります。

しかも近年はこうした仕事であっても、職場環境が厳しくなって必ずしも「待遇が良い」とは言い切れないケースもある。漫然とした安易な姿勢でこうした職に就こう(就くことができる)と思わないことが肝心です。

しかしそれでも、大学卒業者にとって「そこそこのホワイトカラー」は最も一般的な選択肢で、「以前よりも狭き門」といいながらも、相当な数の就職先がまだあることも事実です(なお、会社勤めの頃の私は、この「そこそこのホワイトカラー」の仕事をしていました)。

選択肢3「賢い機械が苦手な仕事」に注目する

そして、コンピュータ・AIという「賢い機械」の苦手な分野に注目するという、第三の選択肢があります。賢い機械が得意なのは、情報処理です。それ以外は苦手です。

そして、おおまかにいえば「そこそこのホワイトカラー」は情報処理を核とする仕事です。「高いスキルの少数派」は、新しい情報や、情報処理の枠組み・基盤をつくり出す人です。

賢い機械にとって苦手といえば、おもに2つの領域があるでしょう。

それは「①人と接してケアを行う」「②モノや設備などに物理的に働きかける」ということ。短く言えば「①人のケア」「②モノへの働きかけ」です。

人のケア(賢い機械が苦手①)

このうち「①人のケア」の分野は比較的わかりやすいと思います。医療、介護、教育・保育、接客・販売などの分野はこれにあたります。これらの仕事は「ニーズをかかえた顧客と対話して、いろいろと読み取ったうえで、専門性にもとづく働きかけを行う」ことを核としています。

ここでいう「ケア」とは「対話に基づく専門的な働きかけ」のことです。その意味で、営業職も基本的にはここでいう「人のケア」の仕事だといえるでしょう。

こうした「ケアのための対話」は、機械にはまだ困難なことが多いです。そして「働きかけ」にともなう肉体的な動作は、機械はさらに苦手です。

モノへの働きかけ(賢い機械が苦手②)

「②モノへの働きかけ」にあたるのは、モノ作り(製造業・建設業・システム開発など)、モノの保管や運搬(物流・運輸)、施設などのメンテナンスといった領域です。

「賢い機械」は、モノを操作するのは苦手です。インターネットやコンピュータのシステム自体がモノを運んで届けてくれるわけではない。設備や機械の状況を確認して必要な措置をとるのも、現場で人間が動かないと不可能です。

技術が進歩しても、当面のあいだこれは変わらないでしょう。

賢い機械が苦手な仕事における「優位な企業」

「人のケア」「モノへの働きかけ」という、賢い機械が苦手な領域に目を向けることを、ここでは強調しておきます。

それは、多くの就活生や親御さんが、そこにあまり関心を寄せないからです。しかし、有力な選択肢としておさえておくといいと思います。

「人のケア」「モノへの働きかけ」の領域で、確かな技術や市場・取引先などの事業基盤を持ち、その優位性をもとにかなり良い待遇が実現している企業は、世の中にいろいろ存在しています。中小企業でも、そういう会社はあります。

こういう企業をここでは「優位な企業」といいましょう。

「人のケア」「モノへの働きかけ」の世界は「ブラック」「3K」などのマイナスイメージもありますが、実際は業界・会社によっていろいろです。

ただ、若者が関心を持ちやすい身近なイメージの業界には、過当競争や労働力の需給バランスの関係で、働く人たちが厳しい環境におかれる傾向があります。

たとえば美容関係、いわゆるエンタメ系、レジャー・観光業界、一部の飲食業などは典型的です。また、医療、介護、保育の場合は、規制などの政策的な要素が作用して「ブラック」になる傾向がみられます。学校教育の現場も政策のせいで「ブラック」化しているようです。もちろん、これらの業界も企業・組織によってさまざまではあります。

一方で「BtoB」(一般消費者でなく企業を顧客とするビジネス)の、若者がイメージしにくい業界のなかに「優位な企業」は比較的多く存在します。

とくにそれは「モノへの働きかけ」の世界でみつけやすい傾向があります。事業分野によっては、新規参入が少なく過当競争になりにくい、政府による規制の影響がかなり少ないといったことがあるからです。

しかし、こうした視点は多くの就活生には弱いです。それでも「高いスキルの少数派」や「そこそこのホワイトカラー」を志向しながら壁に直面した人が、賢い機械が苦手な仕事に着目し、そこで「優位な企業」をみつけて納得のいく就職ができた、というケースを私はかなりみてきました。

賢い機械が苦手な仕事で「優位な企業」をさがすという選択肢は、かなり有力なものだと思います。

まとめ・社会における4つの役割

以上、すべてに通じるのは「今までの中流や平均を安易に求めても、うまくいかないし、楽しくもない」ということです。

「中流」や「平均」を求めるのはいいのですが、「それは簡単ではない」というイメージを持ち、「それだけがあるべき姿だ」と考えないことは、大事なのではないか。

「平均は終わった」とまではいかなくても、「平均は貴重なものになってきた」のです。その状況に適応することを、それぞれが自覚的に考えるといいのでは、と思います。

そして、現代社会における職業的な役割には、おもにつぎの4つがあることを整理しておきます。

・新しい情報の創造、情報処理の枠組み・基盤をつくる(高いスキルの少数派)
・情報処理を核とする仕事(そこそこのホワイトカラー)
・人をケアする(賢い機械が苦手①)
・モノへの働きかけ(賢い機械が苦手②)

現実の職業は、これら4つの役割が同居していることが多いです。しかし4つのうちのどれかを「核」としているのです。

この4つの役割を意識して「どの方向をめざすか」というのが、職業選択を考えるひとつの入り口になると思いますが、いかがでしょうか。

 

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