親と教師のそういち就活研究所

親・先生などの、若者の近くにいる大人のための就活講座のブログです。でも就活生にも役立つかと。

採用試験なんてそういうもの・重く受けとめすぎない

宮崎監督による採用試験・「あの選考はなんだった?」

就職活動についてのブログなのですが、「採用試験なんてそれほどはあてにならない、重くうけとめすぎないで」ということを、この記事では強調したいと思います。 

アニメの宮崎駿監督による「採用試験」というコラムがあります(宮崎駿『出発点1979~1996』徳間書店、1996年に所収)。

アニメ監督という特殊な世界の人がだいぶ前に述べたことですが、採用試験についての真理を巨匠が語った「古典」だと私は思います。

宮崎さんは、スタジオジブリ以前の昔に、あるアニメ会社のアニメーター採用試験を担当したことがあります。数百名の応募から約10名を採用する選考で、多くの人が不採用になりました。しかし、じつはこうだった、といいます。

 《その後、仕事場を移って何本か映画を作った。そのたびに、スタッフの中にそのときの選考で私が不合格にした若者たちと出会った。いま作っている映画の中心メンバーにも、その数名が参加している。そのとき合格にして養成した新人たちも、成長して仲良く机を並べている。いったい、あの選考はなんだったんだろう》

「落ちた人のその後の活躍」は気がつきにくい

 過去の採用試験落ちた人たちにも、その後第一線で活躍する人が多くいる。採用した人以上に育つ人もいる。

この事実を、宮崎さんの業界はそれほど広くないので、長く仕事を続けていると「ほんとうにそうだ」と痛感することになる。そこで、みえてくるものがある。

一方多くの会社では、過去に不採用にした人とその後に仕事で出会うことは少ないです。世間は広いからです。そこで、「あのとき不採用にした人がその後おおいに活躍している」のに気がつかない。

それだと採用試験というものの限界は、なかなかイメージできません。自分たちが採用した人のその後をみるけでは、わからないことは多い。

「限界がある 」のはあたりまえのはずだが

採用試験なんて、そういうもの。採用試験で「すぐれた資質の人を客観的に選ぶ」ことは、たいへんむずかしいのです。ある程度はできるかもしれませんが、「あてにならない部分」は多いです。

つまり、おおいに限界がある。落ちたら「自分はダメ」ということではない。これはあたりまえかもしれません。

 しかし、就活や採用活動にかかわる企業や専門家は「選考なんてあてにならない」とはあまり言えません。採用にかかわるプロとして、自分たちが依拠する枠組みや基準の客観性のほうを強調することになる。「あたりまえ」を認めにくいのです。

それは採用選考というものの一般的なイメージを歪めていると、私は思います。

宮崎監督も、さきほどのコラムでこう述べています。

《書類選考を始めてすぐ壁にぶつかった》《一目瞭然の独創性、すぐれた資質の者などひとりもいない。混沌である。…面接しても、全員緊張ではりつめているから、瞳がキラキラしていて、質良く見えてしまう。慎重に客観的にと思いつつ、結局は狭い経験主義に頼ってしまったようだ》

 志望の会社に落ちても…

例年、新卒の採用選考が「解禁」になって1~2か月経つと、「志望の会社に落ちてしまって」という就活生が多くあらわれます。

そのころには「人気のある大企業」で採用の選考がひと段落する。そうした選考で、残念ながら落ちる人がおおぜい出てしまう。「もう、受ける会社がない」などと落ち込む人もいる。

もちろん、「受ける会社がない」なんてことはありません。たしかに、一部の大企業の選考がかなり終わったとしても、それは日本の会社のほんの一部。受ける価値のある会社は、まだまだあります。

つよく志望していた会社の選考に落ちてしまったら、どうするか。

もしもめざす場所に対し、ある程度「いい線」のレベルにあると思える人なら、もっと小さな会社になるかもしれませんが、同業のほかのところをあたりましょう。

その世界のどこかで、その人を採用してくれるところがあるでしょう。「理想」の条件ではないかもしれませんが、チャンスは与えられるはずです。

「〈理想〉の条件でないなら、あこがれの〈あの会社〉でないなら、その世界はいやだ」という人もいるでしょう。「野球選手になるなら巨人でないといやだ」とか「スタジオジブリでないとアニメーターにはなりたくない」といったことです。

だったら、自分の「夢」を考えなおしてみてもいいかもしれません。その「夢」には、柔軟性が欠けているのではないか。その「夢」に縛られて身動きがとれなくなったら、あまりにもったいないです。

自分を売り込む場所を変えると、評価が大きく変わることも 

そして、「いい線いっている、一定のレベル」に達するのには、面接その他の選考に向けて、それなりの努力や準備をすればいいのです。

つまり、その会社や業界をよく調べ、面接で話すべきことをよく考えて、話す練習をする。大学のキャリアセンターなどで就活のカウンセラーからアドバイスを受けるのも、きっと役立ちます。

「一定のレベル」に達するだけなら、努力でどうにかなります。そこは、才能や、運の良し悪しや、面接のときの勢い・要領などには、あまり左右されません。

もしも、そんな努力を重ねながらも「採用」に至らないなら、あるいは「一定のレベル」に達するのがむずかしいようなら、別の世界をあたってみるといいです。

「自分」を売り込む・持っていく場所を変えてみるのです。そういう「ほかの場所」というのは、世間は広いので必ずあります。

すると、その人への評価が大きく変わることがあります。「NO」といわれ続けていた人が、別の場所では「いいね!」といわれることがあるのです。そこが自分を生かす場所かもしれない。

以上は、「きれいごと」ではなく、ほんとうのことです。くりかえしますが、採用試験なんて、そういうものなのです。