親と教師のそういち就活研究所

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日本社会の硬直性(挽回のむずかしさ)によって若者が希望を失っている?

日本では将来に希望を持つ若者が少ない

鈴木賢志『日本の若者はなぜ希望を持てないのか』(草思社、2015)という本があります。内閣府が2013年に実施した「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」について、分析・解説した本です。

この調査は、日本および6つの国(アメリカ、イギリス、スウェーデン、フランス、ドイツ、韓国)の13歳から29歳までの若者を対象に、共通の質問項目で行ったもの。

少し前のデータですが、そのデータが示す社会の状況は今も変わらないと思います。以下、同書を引用・要約します。

その調査の質問項目に「あなたは、自分の将来について明るい希望を持っていますか」というのがあります。回答の選択肢は「希望がある」「どちらかといえば希望がある」「どちらかといえば希望がない」「希望がない」の4つ。

この問いに対し、日本の若者の12%が「希望がない」、26%が「どちらかといえば希望がない」と答えています。両者を合わせる38%。

これに対しほかの6か国では、「希望がない」「どちらかといえばない」の合計は、アメリカ9%、スウェーデン9%、イギリス10%、韓国14%、フランス17%、ドイツ18%です。

つまり、日本ではほかの国ぐによりも将来に希望を持つ若者が、明らかに少ないのです。

挽回のむずかしさ・日本社会の硬直性

それはどうしてなのか? 著者の鈴木さんは、経済的な不安定さ、家庭生活に対する不満、友人関係の希薄さ、学歴や仕事の有無など、さまざまな要因を分析したうえでつぎのように述べます。

“それらを一言でまとめると、日本では、現状のマイナス要因が将来の希望度を引き下げる度合いが強いということだ。たとえば受験や就職で一度失敗すると、それをなかなか挽回できない。将来に希望を持っている若者の少なさには日本の社会システムの硬直性が端的に表われている”

つまりこれは「一度落ちこぼれると、挽回がむずかしい」ということ。日本社会にはそういう硬直性がある(少なくとも、そう感じられる面がある)。「今はダメでも、明日はなんとかなる」という希望を抱きにくいのです。

たとえば「中退・休学中」の場合の希望度の低さ

たとえば、日本では「学校を中退・休学中」の若者が、将来に「希望がない」または「どちらかといえば希望がない」と答える割合が72%にのぼります。学校を中退・休学することは、将来への希望度を大きく引き下げています。

そして日本のこの数字は、ほかの6か国よりも極端に高いです。たとえばアメリカでは「学校を中退・休学中」の場合、「希望がない」「どちらかといえば希望がない」の合計は14%です。

以上、要するに日本では、若者が一度落ちこぼれると「もうダメだ」と思ってしまう傾向が強いのです。

「日本社会の硬直性」は就活相談の現場感覚とも合致している

このような分析をどう思われるでしょうか? 分析として当たっていると思いますか? 私は鈴木さんのこの分析に同感です。

「日本社会の硬直性」ということは、若い人の就活の相談に乗ってきたキャリアカウンセラーとしての私の現場感覚とも合致しています。

たとえば日本では、20代半ばまでに正社員として就職しないと、その後の職業選択でかなりのハンデを負うことになります。正社員になることが相当にむずかしくなったり、正社員になれるとしても選択の幅が大きく制限されたりするのです。

そしてこの「選択の幅の制限」ということが、とくに大きいと感じます。「正社員になれない」というよりも「思うような正社員の職に就きにくくなる」ということです。

もちろんカウンセラーとしては、ハンデを乗りこえるための突破口を相談者とともに懸命に考えます。そしてかなりの場合、行動すれば一定の突破口はあるものです。

それでも20代後半の正社員経験のない方の相談にのって、「この人があと3歳若かったら、希望に沿った就職がもっと容易にできたのに」と思うことがあります。

いろんな対処が可能とはいえ、日本社会には「若いうちのマイナスを挽回するのがむずかしい」傾向はあると、私も感じています。

社会システムを変えたほうがいい、だが簡単ではない

日本社会の硬直性は、やはりなんとかしたほうがいいのです。同書の著者・鈴木賢志さんも、こう述べています。

“日本の社会システムをより柔軟にし、一度失敗して今がダメでも、明日は成功する可能性があると思える世の中にすることが、希望を持つ若者を増やす最も確実な方法である。したがって、そのための努力を重ねていくことは大切だ。もちろん、それは簡単なことではない。しかし少なくとも、現在の日本の社会システムは決して永続的なものではなく、自分たちがそれを変えてゆけるという意識を持てるようになるべきだ“

たしかにもっともです。しかし、自分1人の状況を「よい方向へ変えていける」という希望を持てない若者が、どうして「社会を変えていける」と思えるでしょうか? 

批判めいたことを書きましたが、鈴木さんの本は多くの人に読んでもらいたい、すぐれた著作です。社会を変えていかなければ、というのはそのとおりだと思います。だがしかし、ということです。

とりあえず、希望を見出すための「情報」が必要

私は、若者が「希望」を見出すための具体的な道筋として、とりあえずはもっと現場的なことを考えたいと思います。

一度はマイナスを背負った若者が希望を見出すために必要なものは「情報」なのではないか? 挽回するための突破口を見出すための情報です。

それはまず、この社会の職業世界に対する情報です。この社会には会社勤めに限っても、じつにさまざまな仕事があり、探せばどこかに自分の居場所をみつけることが可能だという見通し。

そして職業をベースに、自分の生活や人生をよりよいものにしていけるという感覚。その見通しを持つ根拠となる具体的な知識・情報。そこには「こんな企業からのこんな求人がある」といったレベルの具体性も必要かもしれません。

いわゆるキャリア教育には、情報の具体性という点で足りないところがあるように思います。「地図を読むのは大切ですから、しっかり読みましょう」という教育があっても、自分がいる場所の具体的な地図が示されない傾向がある。

若者への「職業の情報」は供給が不足している

「職業世界の具体的な地図」を示せる、つまり系統だった情報提供ができる教師や専門家は、いるのでしょうか? いたとしても希少な存在だと思います。

学校の先生にとって「企業を中心とする職業の世界」は苦手な分野です。キャリアカウンセラーだって、幅広い職業・企業について知識を持つことは容易ではありません。

「私は社会人経験が豊富だ」という人だって、自分が属していた企業や業界以外のことはよく知らないのがふつうです。

つまり、若者への「職業の情報」は、供給が不足しているのです。

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私は、キャリアカウンセラーとしての個別の相談で「突破口を見出す情報」を提供することをこころがけてきたつもりです。うまくできないこともありましたが、その努力はしてきました。

私は先生のように「生き方」を説く立場ではありません。「気づきをうながす」といった、いかにもカウンセリング的なアプローチも行いますが、中心ではなかった。

そして今の私は、ここでいう「情報の供給」に関し、個々の若者よりも先生や親御さんをおもな対象にしています。そもそも大人たちがこの社会の職業や仕事について、それほどはわかっていないのかもしれない。

このブログも、大人の方々のお役に立ちたいと思って始めたのです。そして私自身も、もっと勉強しなければと思います。

 

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