親と教師のそういち就活研究所

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文章上達のトレーニングに最もおすすめなのは、コラムを書いてみること  

就活の作文は、本格的な文章 

就職活動で書く自己PRや志望動機などの文章(就活の作文)は、多くの人にとって初めて書くことになる本格的な文章です。

「本格的」というのは、つぎのことを要求されるからです。

・書き手の主張・見解・分析を
・論拠や事例などを示しながら
・決められた分量で(過不足なく)書く

そして、読み手の納得や共感を得る必要がある。そのために読みやすく書かないといけない。

就活の作文の多くは数百字程度ですが、以上の要求を満たす必要があります。

たとえば「自分はどういう人間であるか」についての主張を、エピソードなどを通して、応募書類のスペースにおさまるように読みやすく書く。それを読んだ企業の人に納得してもらわないといけない。やはり「本格的な文章」です。

そして、多くの学生さんは、本格的な文章を書いた経験がありません。文章の書き方を学校できちんと学ぶ機会は、なかなかないです。そこで、就活の作文ではおおいに悩むことになります。

このことは、つぎの記事でより詳しく述べています。

コラムを書いてみよう

意欲的な学生さんから「どうしたら文章が上達しますか?」と聞かれたことが何度かあります。

卒業年次で就職活動がすでに忙しい人は、目の前の就活の作文に懸命に取り組むしかありません。「本番」の中で上手くなるしかない。

しかし、「本番」前の卒業年次以前の学生さんたちには、おすすめしたいことがあります。それは「コラムを書いてみる」ということです。

コラムとは、短い論説文のことです。論説とは、一定の事実・対象について意見や分析を述べたものです。多くの場合、500~1000字くらい。「天声人語」などの新聞のコラムは600字前後です。

何でも題材にできるのが、コラムという形式です。ただ、小説のようなフィクションではなく、自分の心象(心の動き、イメージの世界)を中心に表現するのでもない、ということです。

身の周りのこと、人生論、時事問題、科学、芸能・スポーツ……堅いことも柔らかいことも、コラムの題材になります。本や音楽などの批評にも、コラムとして書かれたものが多くあります。

コラムと、エッセイ・説明文・小論文はどうちがうか

コラムは「エッセイ」とはちがうのか? エッセイとコラムに厳密なちがいはありません。ただ一般には、エッセイというと身辺雑記などの、いかにも文芸的な文章が多い。コラムのように明確な意見や分析を含まないものもある。

エッセイは、コラムよりも自由度が高いものだといえるでしょう。

そして、コラムはいわゆる「説明文」ともやや異なります。説明文は、フィクションではないし、心象風景や身辺雑記を中心とするものでもありません。そこはコラムに近いといえます。

しかし説明文の中には、著者の主張や分析が述べられず、情報の提示・羅列が中心のものもあります。製品の説明書はそうです。しかし、コラムにとって「主張・分析」は必須の要素です。

説明文にも著者の主張や分析が述べられていることはあります。しかしそれは(短い文章であれば)「コラム」というべきでしょう。

「小論文」とコラムはちがうのか? 「小論文は、書き手の主張を論拠とともに述べるもので、そこが作文とはちがう」などと説明されることがあります。そして、どちらも数百文字で書く。つまり小論文とコラムはかなり近いものです。

ただし、コラムのほうが、題材などの自由度は大きいです。小論文というと、どうしても試験問題的なテーマが浮かんできます。一方コラムは先ほども述べたように、趣味や娯楽も含む、さまざまなことを書いていいのです。

 評論家・福田和也さんによる、コラムのすすめ

「就活の作文」を意識した文章上達のためには、やはりエッセイでも説明文でも小論文でもなく、コラムを書くことをおすすめします。

コラムは「筆者の主張・分析を、事例や論拠とともに、コンパクトに読みやすく書く」もので、それと同じことが就活の作文でも求められるからです。

そして、幅広いテーマを扱えるので、書きたいこと・書きやすいことをみつけやすい。そこで、練習で書くには向いています。

 私が、文章修業でコラムを書く効用を初めて自覚したのは、10年余り前に読んだ、評論家の福田和也さんの著書からでした(『ひと月百冊読み、三百枚書く私の方法②』PHP研究所、 2004年)。大学の先生でもある福田さんは、ゼミで学生にコラムを書かせているとのこと。

福田さんによれば、コラムを書く利点はつぎの三つです。

“①短いので、文章のすみずみまで神経を行き渡らせることができる。 ②人に読んでもらえる……③書くという前提で、事物に接する姿勢を育てることができる。”

これは、自分のことを振り返っても、その通りだと思えます。以下は、福田さんの論を下敷きにしています。

 コラムの長所・「書きやすい」「読者を得やすい」

コラムという形式には、いろんな長所があります。まず、初心者にも完成できる長さであること。それも、ちょうどいい長さ。

文章の世界には、もっと短い形式もあります。たとえば「アフォリズム」という、短いものだと数十字以内で「深いこと」「気の利いたこと」を書く形式もあります。

でもあまりに短いと、制約が多くて初心者にはかえってむずかしいです。だから、500~1000字くらいが書きやすい。

その長さなら、書くときに細かいところまで気を使えます。ていねいに書き、推敲する練習になります。

そして、その長さだと「読者を得やすい」ということがあります。一息で読めるので、最後まで読んでくれる可能性が高くなる。それで感想・アドバイスをもらえれば、おおいに勉強や励みになります。

そして「読者を得やすい」というのは、文章としていろんな需要がある、ということです。

つまり、いいものが書けたときに、雑誌(ミニコミ、ウェブ上の媒体含む)などに載せるチャンスがあります。当然ですが、大論文よりも短いコラムのほうが、掲載されやすいです。ブログの記事にも、適しています。

多くの人に読んでもらえる可能性が、コラムという形式にはあります。「読者がいる」というのは、書く意欲をおおいに高め、文章の上達につながります。

私が経験した、コラムを書く効用

コラムを書く効用は、私自身も経験したことです。

20代の頃の私は、文章を書きたい、いつか本を出せるようになりたいと思って、いろいろ書いていました。しかし、そのころ書いた長い文章は、なかなか人に読んでもらえませんでした。

そこで30歳を過ぎてからは、読んでもらえるように短い作品を書くことを、長い文章に取り組む一方で始めました。

私の場合、それは歴史上の偉人・有名人について、400~500字で紹介する――しかも単なる紹介ではなく、短くてもひとつのまとまった、主張や視点を打ち出した読み物にする、というものでした。

これは、書いていた当時は自覚していませんでしたが、コラムの一種と言えるでしょう。そういうものを何十本か書いたのです(のちに100本以上書きました)。

このコラム――『四百文字の偉人伝』は周りの人に好評で、「読んでもらえる」手ごたえがありました。当時参加していたNPOによるミニコミの出版物にも載せてもらえました。そして、のちには商業出版にまでこぎつけたのです(ディスカヴァー・トゥエンティワンから電子書籍として発売中)。

コラムをたくさん書いたことで、自分の文章は大きく変わったと、ふり返って思います。

その後私は世界史の概説書の単行本(『一気にわかる世界史』日本実業出版社)も出版しています。

編集者というプロに「商品になる」と評価していただける文章が、ある程度は書けるようになったということです。しかし、若い頃はうまく書けなかった。それが、コラムを書くことで上達のきっかけをつかんだのです(ただし、今でもプロとして文章が上手いとはまったく思っていません)。

 文章が書ける学生はコラムを書いていた

私が接した学生さんのなかにも、ごく少数ですが「文章が書ける」人がいます。その人たちのほとんどは、学生時代にある種のコラムを書いていました。

好きなマンガの批評をブログで書いていた人、大学のゼミで短い(数百~1000字程度の)レポートを年に何十本も書いて、さらに先生が添削してくれたという人。

それから、体育会の部活で、部員や関係者が読む部活のニュースレターに、毎号コラム的な文章を書いていた人に会ったこともあります。一般には体育会系の人は「文章が得意」というイメージは薄いですが、その人はちがいました。

 何のテーマでもいいから、コラムを書いてみましょう。たとえば、映画・マンガ・小説・音楽の批評は取り組みやすいかもしれません。

「何が、どう良いか」を説明できるように

そして、その作品について単に「良かった」というだけでなく、何が、どういう点で良かったのかを分析して説明しましょう。それを数百~1000数百字で書く。ネット上の批評の文章は長文が多いですが、短くまとめる練習をするのです。かといってツイッターほど短いわけでもない。

これはなかなか難しいことです。最初は、小さい子どもがアンパンマンショーについて「アンパンマンがでてきたのがおもしろかった」というのと、たいして変わらない感じになるかもしれません。

しかし、頑張って書き続けて「何が、どう良いのか」をコンパクトに説明できるようになれば、その力は就活の作文に使えます。自分について、あるいは志望企業について「何が、どう良いのか」を説明できるはずです。

もちろんその文章力は、就活だけでなく、社会で生きていくうえで大きな力になるでしょう。

そして、コラムを書いたら、人に読んでもらいましょう。それを何度もくり返すと、文章がかなり書けるようになっています。書くことの初心者を卒業できています。

まずは1本書いてみる。つぎは5本。できれば10本書いて人に読んでもらう。とりあえず、それでかなりちがってくるはずです。

*北村紗衣『批評の教室』(ちくま新書、2021年)は、学生・初心者が批評を書くうえで参考になる本で、おすすめです。

 

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